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歯の再利用について
こんにちは!三重県松阪市の歯医者、林歯科医院の歯科医師の濵田です。
先日、京都大学発スタートアップのトレジェムバイオファーマ(京都市)などから、歯を生やす抗体医薬品の臨床試験(治験)を9月に始めると発表されました。
大学院生の頃に他のグループで歯髄からのips細胞(細胞を培養して人工的に作られた多能性の幹細胞)について研究されていたなぁ、と思い返し、色んな方面から、治療法は変わっていくのだなと感銘を受けました。
歯の神経を抜いた歯に、親知らずや矯正で抜いた歯の歯髄から細胞を取り出して培養して、再生に必要な細胞数を増やして、歯の死んだ神経に生きた神経を戻す歯髄再生治療が行われてきています。1歯から5~6歯分の細胞移植ができるそうです。自分の歯の細胞移植なので非常に安全で、将来的には抜けた乳歯から両親や祖父母の治療に使えるように研究がされていくようです。2027年には治療として広く一般的に行っていく計画だそうです。また、歯髄再生療法のほかに、先日のニュースでは、歯の形成を阻害するタンパク質USAG―1がつきとめられ、歯の形成を阻害するタンパク質を阻害すれば歯は再生されると仮説をたて、永久歯のもととなる第3の歯と呼ばれる歯を生やす研究がされています。生まれつき永久歯が少ない「先天性無歯症」の患者の歯を生やす「歯生え薬」について、人への安全性を確かめる臨床試験(治験)を今年9月ごろ始め、2030年の実用化を目指されているそうです。
今回は歯の移植についてお話します。1990年代ではやってみないと成功するかわからないといったイメージがありましたが、現在では、科学的根拠はもちろん、臨床研究データも多く報告され、エビデンスとして確立されており、世界中でも注目されている術式となっています。
移植であれば、骨量がある程度少なくても歯根膜のおかげで骨は再生します。すべてではありませんが、自家歯牙移植の場合、レシピエント歯の抜歯後に歯肉の治癒を少し待ってから歯根膜のある移植歯を位置付けることで、付着歯肉も回復することが多く、FGG(遊離歯肉移植術)を必要としない症例もあります。
自家歯牙移植の成功への条件の1つとして年齢があります。自家歯牙移植の成功率は、移植後15年で55.6%という報告がありますが、多くの研究で90%以上の成功率が報告されています。移植は歯根膜の治癒力次第であるので、若いほど治癒力が高く、30~40歳がボーダーラインともいわれています。しかし症例選択や術式が適切であれば、年齢が多少高くても長く機能することもあります。逆に、ドナー歯が複根だったり、歯周病に罹患していると失敗する可能性が高まります。アンキローシスへの予防法もあまりなく、必ずしも適応症が多いわけでもありません。まずはCT像などで確認したうえで移植を検討すべきでしょう。
小中学生の頃とは全く違う時間の感覚ですので、治験がうまくいけば、気づけばその治療法が話題に触れられていて、あぁ、もうそんなに経ったかぁ、2030年かぁ、あっという間だったね、という会話がされそうですね。
参考 ザ クインテッセンス2024年4月
歯科医師 濵田真智